毎日新聞2018年2月13日 東京朝刊

 佐川宣寿(のぶひさ)国税庁長官を衆院予算委員会に招致するかどうかが通常国会の大きな焦点になっている。

 佐川氏は昨年の通常国会で、財務省理財局長として森友学園への国有地売却問題の政府答弁を担当した。

 野党の招致要求を与党は拒否している。後任の太田充理財局長が答弁すればよいというのが理由だ。しかし、その理屈には無理がある。

 第一に、佐川氏が交代してから、新たな行政文書や音声データが発覚したことだ。学園側との交渉記録について「全て破棄した」という佐川氏の答弁は根底から揺らいでいる。

 近畿財務局の担当者間で対応を相談した内部文書を財務省は今年になって1月に5件、今月も20件と相次ぎ公表している。だが、会計検査院が昨年、国会に提出した森友問題の報告書には反映されていない。

 財務省は組織的に情報を隠蔽(いんぺい)していた疑いがある。佐川氏はその当事者として国会で説明すべきだ。

 第二に、売却価格を8億円値引きした根拠についても、佐川氏の答弁は正当性を失っている点がある。

 「価格を提示したこともないし、先方からいくらで買いたいといった希望があったこともない」

 佐川氏はこう断言していた。しかし、学園側が「ゼロに近い形で払い下げを」と要求し、近畿財務局職員が「ゼロに近い金額まで努力する」と語った音声データが見つかった。

 財務省と学園の間でどのような交渉が行われたのかが真相究明の根幹だ。音声データの内容は「金額のやり取り」であって「価格交渉」ではないなどと太田理財局長は苦しい答弁を繰り返している。

 学園側が問題の土地に建設していた小学校の名誉校長には一時、安倍晋三首相の妻昭恵氏が就いていた。それは「知らなかった」というのが佐川氏の答弁だが、学園側が再三、昭恵氏の名前を出して財務省に値引きを迫ったこともわかっている。

 佐川氏を国税庁長官に起用した人事は「森友隠し」の論功行賞と野党などから批判された。佐川氏は長官就任後、記者会見もしていない。

 学園側と昭恵氏の関係を財務省がそんたくし、不当な便宜を図ったのではないかという疑念は消えないままだ。佐川氏の招致なしに、森友問題の真相究明は進まない。