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 施政方針演説で「条約を締結できなければ東京五輪・パラリンピックを開けないと言っても過言ではない」と述べて以来、共謀罪の必要性を繰り返し強調する安倍首相。

稀代の悪法が再びよみがえり、今、国会へ提出されようとしている。

 共謀罪に詳しい山下幸夫弁護士はこう話す。

「安倍首相は“世界一安全な日本でオリンピックを”と五輪を誘致したのに、共謀罪がなければ危ないというなら、あのプレゼンは大嘘だったということ。今回の法案に反対しづらくするためのこじつけです」

 今回の政府案では『共謀罪』にかわって『テロ等準備罪』という名称に変わっていた。名が変わっても、その本質は変わらない。ジャーナリストの大谷昭宏さんが指摘する。

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「役人の常で“テロ等”と、“等”という言葉を入れてきた。でも、“等”が何を指すのかはわからない。これではなんでも含まれてしまいます。百歩譲って等を取ればいいが、すると日本ではほとんど適用されることのない法律を作ることになる。なぜ使いもしない法案を通したいかと言えば、この目的がテロ対策ではなく“等”にあるからです」

 共謀罪創設の法案が初めて国会に提出されたのは'03年。これまで3度出され、すべて廃案になっている。

「審議をすればするほど問題点が明らかになり、危ない法案だとわかったからです」(山下弁護士)

 共謀罪の中身とは? どういった目的の法案なのか詳しくみていこう。

 発端となったのは'00年、国連で採択された『国際組織犯罪防止条約』に遡る。イタリア・パレルモで署名されたことから『パレルモ条約』とも呼ばれるこの条約は、マフィアなどによる銃や薬、人身取引などの国際的な組織犯罪を取り締まるのが目的。日本は'03年に国会承認したが、批准するにあたり、国内の法律を整備する必要があった。そこで出てきたのが共謀罪だ。

 日本の法律は、やってしまった犯罪に対して処罰されるのが大前提。ごく例外を除いて、まだ何も被害が出ていないうちから犯罪計画について話したり、それに合意したりするだけでは罪に当たらない。だが共謀罪は、話し合った段階で罪に問われてしまう。

「今回の法案で対象となる犯罪の数は676。懲役・禁錮4年以上の重大犯罪すべてが該当します」

 と山下弁護士。ひと口に重大犯罪といっても、殺人、窃盗、詐欺から道路交通法違反に至るまで幅広い。

「業務上過失致死まで入っている。一緒にヘマをやって、自動車事故を起こそうと計画するのか? あり得ない。前回も含めて、いかにおおざっぱな法整備で臨んでいるかということがわかります」(大谷さん)

 公明党への配慮から、対象犯罪の数を半分まで絞りこむ動きもあるが、

「'06年に、当時の民主党(現・民進党)が対象犯罪を300に減らした修正案を出した際、自民党の細田博之幹事長(当時)は“このままでは批准できないので1度成立させて、もう1回改正して2段階でやる”と明言していた。数を削っても、作ってから法改正して広げる恐れが高い」

 安倍首相が今国会で共謀罪の必要性を説くのは、こんな理由もある。

「この夏、G7サミットが再びパレルモで開かれます。参加7か国のなかで条約に批准していないのは日本だけ。手ぶらで訪れるわけにはいかないため、安倍首相は共謀罪を作ろうと急いでいるのでしょう」

“戦争反対”と落書きする計画を立てただけで罪に
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悪夢の再来か―。'06年、東京・永田町で共謀罪に反対する市民団体のメンバー

 どんなときに、共謀罪に問われるのか。

「公衆トイレの壁に“戦争反対”と書く計画を話し合う。これだけで共謀罪になります」

 と山下弁護士。これはイラク戦争のとき、杉並区で実際に起きたケースで、最高裁まで争い建造物損壊罪にあたるとの判決が出ている。当時、もし共謀罪があれば、建造物損壊罪の共謀ということになる。

「基地反対」のプラカードを掲げて座り込む相談をした場合も同様だ。行動に移すまでもなく2人以上が話し合った瞬間、共謀罪に。途中で計画をやめたとしてもダメ。すでに罪が成立している。

 目配せでも成立するとの発言を引き出したのは'05年当時、衆院議員だった保坂展人現世田谷区長だ。

「“暗黙の共謀”といって直接言葉を交わさなくても共謀罪が成立することを当時の法務省刑事局長が答弁し、それを法務大臣も認めています。保坂さんが“目配せと瞬きは、どう違うのか”と追及したら答えられなかった。つまりいかようにでも恣意的に解釈できるということ」

 こうした批判をかわすため、今回の法案では、犯罪の“準備行為”がなければ処罰できないよう変えた。

 しかし何が準備行為となるのか、かなり曖昧だ。

「ATMでお金を下ろす。ファストフードでハンバーガーを食べる。普通に見れば犯罪に無関係な行為です。それをあとから振り返って、共謀を裏づける行為だったと警察が判断するわけです。国会の壁に落書きするために、インクを買おうと思って金を引き出したのだろうとか、落書きの前に腹ごしらえをしたのだろうとか」
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今回の共謀罪新設へ至る流れは秘密保護法から始まっていた

 また、今回の法案では、共謀罪の対象を“組織犯罪集団”としている。

「いろんな市民運動で団体を作っていますが、普通は犯罪を目的に集まっているわけじゃない。例えば10人ぐらいの団体で、国会の壁に政府への抗議メッセージを書こうと半分以上が話し合ったとします。すると団体の共同目的が変わったと認定され、組織的犯罪集団になるのです」

 共謀や準備行為の認定をするのも、組織犯罪集団と決めるのもすべて警察だ。

「政府は共謀罪について一般人は対象外と言っていますが、一般人かどうかを決めるのは警察。警察から見て一般人ではないと思ったら逮捕されてしまう。

 そこでは政府に対立する人かどうかが判断基準です。共謀罪で逮捕して拘留されたという事実が残れば、運動をつぶせます。その手段を警察は持ちたいんです」

 市民が声を上げにくくなる社会、それが共謀罪の真の狙い、と山下弁護士。その目的は「戦争ができる国」の体制強化だと警告する。

「特定秘密保護法、安保法制ときて、南スーダンPKOで自衛隊が派遣されています。まさに今年や来年、集団的自衛権でアメリカのために自衛隊を海外派遣する事態になるかもしれない。そのときに死者が出る可能性がある。それを想定して共謀罪を作っておきたい。戦争反対という声をつぶすための、戦時体制へ向けた取り組みの一環なんです」

 毎日新聞の世論調査では共謀罪創設に53%が「賛成」。テロ対策になると考える人は多い。

「アメリカの9・11やフランスのテロは共謀罪があっても防げませんでした。それに日本は『テロの未然防止に関する行動計画』を定めて、すでに対策をとっています。そもそもパレルモ条約は基本的にマフィア対策で、テロは対象外。共謀罪がなくても条約を批准できるように、国連はわざわざガイドラインを設けて、やり方まで書いています」

 それでも共謀罪は必要だろうか?

「特定秘密保護法、盗聴法と相まって国民が監視の対象になり、恣意的な逮捕や冤罪が続出する社会になってしまう。共謀罪の問題は誰にとっても無関係ではないのです」